【高校化学基礎】混合物の分離③|溶けやすさと移動しやすさを利用する―抽出とクロマトグラフィー【授業図鑑】

化学では、物質がどのような性質をもつのかを明らかにし、その性質を利用することが重要です。
そのため、複数の物質が混ざった混合物から目的の物質を取り出したり、不純物を取り除いたりする技術が発展してきました。
前回の記事では、混合物から液体を取り出す操作として、蒸留と分留を紹介しました。
今回は、物質の溶けやすさや、二つの相の間での移動しやすさの違いを利用する「抽出」と「クロマトグラフィー」を扱います。
どちらも、目的の成分を一度液体に溶かす点では似ています。
しかし、抽出では目的成分を特定の液体へ移し、クロマトグラフィーでは複数の成分を移動速度の違いによって分けます。
この違いに注目すると、二つの操作のしくみを整理しやすくなります。
抽出―溶けやすさと分配の違いを利用する
抽出とは、ある物質が特定の液体に溶けやすい性質を利用して、目的の物質をその液体に移す操作です。
例えば、物質Aと物質Bが溶けている水溶液に、水と混ざり合わないヘキサンを加えて振り混ぜたとします。
物質Aが水に溶けやすく、物質Bがヘキサンに溶けやすければ、物質Aは主に水層に残り、物質Bは主にヘキサン層へ移動します。
物質は一方の液体だけに完全に移るとは限らず、二つの液体の間に一定の割合で分かれて存在します。
このような性質を利用して分離する操作を、液―液抽出といいます。

なお、ヘキサンは水より密度が小さいため、通常はヘキサン層が上、水層が下になります。
ただし、有機層が常に上になるわけではありません。
使用する溶媒の密度によって、二つの層の上下は変わります。
分液漏斗を扱うときのポイント
分液漏斗を用いた抽出では、次の点を確認します。
- コックが閉じていることを確かめてから液体を入れる
- 栓とコックを押さえて振り混ぜ、途中でコックを開いて内部の気体を逃がす
- ガス抜きの際は、漏斗の先を人や火気に向けない
- 静置して二層に分かれたことを確認してから、下層を取り出す
- 下層を流し出すときは上部の栓を外し、液が流れにくくなるのを防ぐ
ヘキサンは揮発しやすく、引火性があります。
また、繰り返し吸入すると神経系に影響を及ぼすおそれがあります。
授業で扱う場合は火気を避け、十分に換気し、必要に応じてドラフト内で教師実験として行うなど、安全面への配慮が必要です。
うがい薬からヨウ素を抽出する
ポビドンヨードを含むうがい薬では、ヨウ素がポビドンと結びついた状態や、さまざまなヨウ素化学種が平衡を保って存在しています。
水で薄めたうがい薬にヘキサンなどの無極性溶媒を加えて振り混ぜると、分子状のヨウ素 I₂ が有機層へ移り、有機層は赤紫色から紫色を示します。
この実験では、「水に溶けていた物質が、なぜ別の液体へ移るのか」と問いかけることで、極性や分子間力の学習へつなげることができます。
ただし、ヘキサンを使う場合は、火気厳禁・十分な換気・廃液の適切な処理が必要です。
生徒実験として実施するか、教師による演示実験にするかは、設備や安全管理の状況に応じて判断します。
身近な抽出とろ過
① ティーバッグ
緑茶や紅茶のティーバッグをお湯に入れると、味・色・香りに関係する水溶性の成分がお湯へ溶け出します。
これが抽出です。
一方、ティーバッグの素材はフィルターとして働き、茶葉の大きな粒を袋の中にとどめます。
つまり、ティーバッグでは「成分をお湯へ溶かし出す抽出」と「茶葉と液体を分けるろ過」が同時に行われています。

② コーヒーサイフォン
コーヒーサイフォンでは、次のような順序でコーヒーがつくられます。
1. 下部の容器を加熱すると、水が温まり、水蒸気が生じる。
2. 下部の容器内の圧力が高まり、湯が上部の容器へ押し上げられる。
3. 上部の容器で湯とコーヒー粉が混ざり、成分が湯へ抽出される。
4. 加熱を止めると水蒸気が凝縮し、下部の容器内の圧力が下がる。
5. 大気圧によってコーヒー液がフィルターを通って下部へ戻り、コーヒー粉は上部に残る。
ここでも、抽出とろ過が組み合わされています。
さらに、温度による気体の圧力変化まで含めて考えると、化学と物理を横断する教材になります。

クロマトグラフィー―固定相と移動相の間での分配を利用する
クロマトグラフィーとは、混合物中の成分が「固定相」と「移動相」の間に異なる割合で分配されることを利用して、成分を分離する方法です。
- 固定相:その場にとどまっている物質。
ペーパークロマトグラフィーでは、ろ紙が固定相として働きます。 - 移動相:固定相に沿って移動する液体や気体。
ペーパークロマトグラフィーでは、ろ紙を上昇する展開溶媒が移動相です。
成分によって、移動相への溶けやすさや、固定相に保持されやすい度合いが異なります。
移動相になじみやすく、固定相に保持されにくい成分ほど遠くまで移動します。
反対に、固定相に強く保持される成分ほど移動距離は短くなります。
「吸着」は、物質が固体などの表面に集まって付着する現象を指します。
「液体が紙に染み込むこと」そのものを吸着とはいいません。
また、クロマトグラフィーのすべてを吸着力だけで説明するのではなく、固定相と移動相の間での分配の違いとして捉えることが大切です。
水性インクの色素を分離する
黒・赤・青・緑などの水性インクをろ紙の原点につけ、ろ紙の下端を水に浸すと、水が毛細管現象によってろ紙を上昇します。それに伴い、インクに含まれる色素も移動します。
一つの色に見えるインクが複数の色の帯に分かれれば、そのインクが複数の色素を含む混合物であることが分かります。
色素ごとに移動距離が異なるのは、水への溶けやすさと、ろ紙に保持されやすい度合いが異なるためです。
実験では、次の点に注意します。
- 原点を展開溶媒の液面より上にする。
- 原点や溶媒前線には、水に溶けない鉛筆で印をつける。
- 展開中は容器にふたをして、溶媒の蒸発を抑える。
- 色素が広がりすぎないよう、原点の試料は少量ずつ乾かしながら重ねてつける。

成分の移動の程度は、次の式で表すことができます。
Rf値 = 原点から成分の中心までの距離 ÷ 原点から溶媒前線までの距離
同じ物質でも、ろ紙の種類、展開溶媒、温度などの条件によってRf値は変化します。
そのため、Rf値だけで物質を断定するのではなく、同じ条件で標準物質と比較することが大切です。
光合成色素のクロマトグラフィー
光合成は植物の葉緑体で行われます。
葉緑体には、クロロフィルa、クロロフィルb、キサントフィル、カロテンなど、複数の光合成色素が含まれています。
植物の葉をすりつぶして色素を抽出し、その抽出液をろ紙などにつけて展開すると、色素を分離できます。
比較的極性の低い展開溶媒を用いる一般的な条件では、カロテンが最も遠くまで移動し、続いてキサントフィル、クロロフィルa、クロロフィルbの順になることが多く見られます。
ただし、色素の移動順序や分離の程度は、固定相や展開溶媒の種類によって変わります。

抽出とクロマトグラフィーの違い
| 操作 | 主に利用する性質 | 分離の見え方 | 例 |
| 抽出 | 溶媒への溶けやすさ、二相間の分配 | 目的成分を一方の液体へ移す | ヨウ素の抽出、茶やコーヒーの抽出 |
| クロマトグラフィー | 固定相への保持されやすさと移動相へのなじみやすさ | 成分ごとの移動速度の違いで分ける | インクや光合成色素の分離 |
二つの操作は別々の方法に見えますが、どちらも「物質によって、異なる相へのなじみやすさが違う」という性質を利用しています。
この共通点に気づかせることが、分離法を暗記項目で終わらせない授業づくりにつながります。
探究への手がかり
抽出条件を変えると、取り出せる量はどう変わるか
茶葉やコーヒーを用い、湯の温度、抽出時間、粒子の大きさ、液量などを変えて、抽出液の色や質量、吸光度などを比較します。
「濃いほど多く抽出できたといえるのか」という測定方法そのものも、探究の対象になります。
資源回収とエネルギー消費をどう両立するか
抽出は、鉱石から金属を取り出す工程だけでなく、使用済みリチウムイオン電池や電子機器からリチウム、コバルト、ニッケルなどを回収する技術にも利用されています。
いわゆる「都市鉱山」から資源を回収できれば、天然資源の採掘量や廃棄物を減らせる可能性があります。
一方、実際の分離工程では、溶媒の製造、加熱、撹拌、送液、回収、廃液処理にもエネルギーと資源が必要です。
抽出後の溶媒を蒸留して再利用する場合には、その蒸留にも多くの熱エネルギーを要します。
また、クロマトグラフィーでも移動相として溶媒を消費し、装置によっては送液に電力を使います。
そこで、次のような問いが探究テーマになります。
- 回収率が高い方法は、必ず環境負荷の小さい方法といえるか
- 溶媒の毒性、使用量、再利用率、必要なエネルギーを、どのように比較すればよいか
- 少量の試料で分析できる方法や、溶媒を使わない分離法にはどのようなものがあるか
- 資源回収によって得られる利益と、分離・精製に必要なエネルギーをどう評価するか
「よく分かれるか」だけでなく、「安全か」「資源を浪費しないか」「工程全体でどれだけエネルギーを使うか」まで考えることで、混合物の分離を資源循環や持続可能な社会の課題へつなげることができます。
理科授業づくり相談室のご案内
抽出やクロマトグラフィーは、身近な現象から学習を始めやすい一方で、「生徒にどこまで理論を説明するか」「有機溶媒を安全に扱えるか」「色素がうまく分離しなかったときにどう授業を立て直すか」といった悩みも生じやすい単元です。
また、操作手順を覚えるだけの授業から、物質の性質を根拠に分離法を選ぶ授業へ変えるには、発問、板書、実験条件、振り返りの設計を一つの流れとして考える必要があります。
「理科授業づくり相談室」では、単元構成や導入の問いづくり、安全に配慮した実験計画、ワークシートの作成、探究活動への発展など、先生方の授業づくりを具体的にサポートしています。
授業案がまとまらない、実験を入れたいけれど設備や時間に不安がある、生徒の理解につながる説明を一緒に考えたい――そのようなお悩みがありましたら、どうぞお気軽にご相談ください。
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