【高校化学基礎】混合物の分離法②|液体を取り出すー蒸留と分留【授業図鑑】

化学では、物質がどのような性質をもつのかを明らかにし、その性質を利用することが重要です。
そのため、複数の物質が混ざった混合物から目的の物質を取り出したり、不純物を取り除いたりする技術が発展してきました。
前回の記事では、混合物から固体を取り出す操作として、ろ過・再結晶・昇華法を紹介しました。
今回は、混合物から液体を取り出す蒸留と分留を扱います。
どちらも、混合物を加熱して生じた蒸気を冷却し、再び液体として取り出す操作です。
では、蒸留と分留では、何が違うのでしょうか。
この記事では、2つの操作を「どのような性質の違いを利用しているのか」という視点から考える授業実践例を紹介します。
蒸留―沸点の違いを利用する
蒸留とは、液体を含む混合物を加熱して蒸気を発生させ、その蒸気を冷却して再び液体として取り出す操作です。
混合物を構成する物質の沸点や蒸発しやすさの違いを利用しています。
蒸留では、目的成分を多く含む液体を得られますが、液体どうしの混合物の場合、1回の蒸留で完全な純物質になるとは限りません。
この点は、「沸点の低い物質だけが蒸発する」と考えないためにも大切です。
海水から水を取り出す
例として、海水から塩類をほとんど含まない水を取り出す操作を考えてみましょう。
海水を加熱すると、水が水蒸気となります。
塩化ナトリウムなどの塩類はほとんど蒸発せず、フラスコ内に残ります。
水蒸気を冷却器で冷やすと、液体の水として受器に集められます。
このように、蒸発しやすい水と蒸発しにくい塩類の違いを利用して分離します。
蒸留装置のしくみ
蒸留では、枝付きフラスコ、温度計、リービッヒ冷却器、アダプター、受器などを使用します。

リービッヒ冷却器は、蒸気が通る内側のガラス管を、冷却水が流れる外側の管が包む構造をしています。
高温の蒸気が内管を通る間に熱を失い、液体となって受器へ流れます。
冷却水は下の口から入れ、上の口から出します。
下から入れることで冷却器の外管を水で満たしやすくなり、蒸気の進行方向と反対向きに冷却水を流すことで、効率よく熱交換できます。
蒸留操作のポイント
- 枝付きフラスコに入れる液体は、原則としてフラスコの半分以下にする
- 温度計の球部を、枝の付け根付近の高さに合わせる
- 沸騰石は、加熱を始める前に入れる
- 冷却水は、リービッヒ冷却器の下口から入れ、上口から出す
- 受器は密栓しない
- フラスコ内の液体を蒸発させ切らず、少量を残して加熱を止める
温度計で測りたいのは、フラスコ内の液体そのものの温度ではなく、冷却器へ入っていく蒸気の温度です。
そのため、温度計の球部を枝の付け根付近に合わせます。
また、加熱中や加熱直後の液体に沸騰石を加えると、急激な沸騰が起こる危険があります。沸騰石は必ず加熱前に入れます。
受器を密栓しないのは、装置内の圧力上昇による事故を防ぐためです。

蒸留酒の製造
蒸留は、ウイスキーやブランデーなどの蒸留酒の製造にも利用されています。
ただし、蒸留によってアルコールが新しく生じるわけではありません。
エタノールは発酵によって生じ、蒸留はエタノールや香気成分を濃縮する工程です。
ウイスキー
ウイスキーでは、大麦などの穀物に含まれるデンプンを糖化し、酵母によって発酵させます。
こうして得られた発酵液は「もろみ」または「ウォッシュ」と呼ばれます。
発酵液を蒸留すると、エタノールや香気成分を多く含む留出液が得られます。
その後、樽で熟成させることで、ウイスキー特有の香りや色、味わいが形成されます。
ブランデー
ブランデーでは、ブドウなどの果実を搾り、その果汁を発酵させてワインをつくります。
そのワインを蒸留して、エタノールや香気成分を多く含む留出液を得た後、樽などで熟成させます。

ウイスキーとブランデーを比べると、原料や発酵までの工程は異なりますが、「発酵によってエタノールをつくり、蒸留によって濃縮する」という点は共通しています。
分留―蒸発と凝縮を繰り返す
分留は、分別蒸留とも呼ばれ、沸点の異なる複数の液体を、沸点範囲の異なるいくつかの留分に分ける操作です。
単純な蒸留では、蒸気を一度冷却して液体に戻します。
これに対して分留では、分留塔の中で蒸発と凝縮を何度も繰り返します。
その結果、沸点の低い成分を多く含む蒸気ほど上部へ移動し、沸点の高い成分は下部で液体になりやすくなります。
分留塔の内部には、下部ほど高温、上部ほど低温という温度勾配があります。
この温度差と成分ごとの沸点の違いを利用して、異なる高さから留分を取り出します。
原油の分留
原油は、さまざまな炭化水素を含む複雑な混合物です。
ガソリンや灯油が純物質として原油の中に分かれて存在しているわけではありません。
製油所では、原油を加熱して分留塔へ送り、沸点範囲の違いによって複数の留分に分けます。
沸点の低い成分を多く含む留分は塔の上部から、沸点の高い成分を多く含む留分は下部から取り出されます。

| 種類 | 沸点 | 炭素数 |
| 石油ガス(LPガス) | 30℃以下 | 1〜4 |
| 粗製ガソリン・ナフサ | 30〜180℃ | 5〜10 |
| 灯油 | 180〜250℃ | 10〜16 |
| 軽油 | 250〜300℃ | 14〜20 |
| 重油 | 350℃以上 | 30以上 |
| アスファルト | (残渣) | ー |
この表の温度範囲や炭素数は目安です。
原油の産地、製油所の設備、製品規格などによって区分は異なり、留分どうしの範囲も重なります。
また、ガソリンなどの製品は分留だけで完成するとは限らず、クラッキング、改質、脱硫、混合などの工程を経て製造されます。
原油の分留では、重い留分は塔の下部に、軽い留分は上部に分かれます。
蒸留と分留の違い
| 蒸留 | 分留 | |
| 主な目的 | 蒸発しやすい成分を取り出す | 複数の液体を沸点範囲ごとに分ける |
| 操作 | 蒸発させた蒸気を冷却する | 蒸発と凝縮を繰り返す |
| 装置 | 枝付きフラスコと冷却器など | 分留塔・精留塔など |
| 例 | 海水から水を得る | 原油を複数の留分に分ける |
どちらも沸点や蒸発しやすさの違いを利用しますが、分留では蒸発と凝縮を繰り返すことで、より細かく成分を分けます。
探究への手がかり
蒸留と分留は、装置の名称や操作手順を覚えるだけでなく、水資源、エネルギー、化石資源、リサイクルなどの社会的課題へ発展させられる題材です。
海水淡水化と水・エネルギー問題
海水を蒸留すれば淡水を得られますが、水を蒸発させるには多くの熱エネルギーが必要です。
現代の海水淡水化では、蒸留を利用する熱方式だけでなく、半透膜に高い圧力をかける逆浸透法も利用されています。
原油を分けるために、どれだけのエネルギーが必要か
原油の分留では、大量の原油を高温まで加熱し、塔内で蒸発と凝縮を繰り返します。
そのため、製油所では大きなエネルギーが必要になります。
ここから、次のような問いを設定できます。
- 高温の留分がもつ熱を、原油の予熱に再利用できないか
- 圧力を下げると沸点が低くなる性質を、重い留分の分離にどう利用できるか
- 石油を燃料として燃やす場合と、化学製品の原料として使う場合をどう考えるか
- 限りある化石資源から、必要な製品をどのような割合でつくるべきか
分留を「原油を種類別に分ける装置」として終わらせず、資源利用とエネルギー消費の両面から考えることで、化学と社会の接点が見えてきます。
分離した溶媒を再利用する
研究室や工場では、使用済み溶媒を蒸留して回収し、再利用することがあります。
廃棄物を減らせる一方、蒸留にはエネルギーが必要です。
「新品の溶媒を使う場合」と「エネルギーを使って回収・再利用する場合」のどちらが環境負荷を小さくできるのかを、原料、輸送、廃棄、安全性まで含めて考えるライフサイクルの探究にもつなげられます。
理科授業づくり相談室のご案内
「蒸留装置の組み立てを説明するだけで、授業時間が終わってしまう」
「操作上の注意を覚えさせても、その理由まで考えさせられない」
「実験結果を、資源・エネルギー問題や社会の技術へどうつなげればよいか分からない」
「限られた設備と授業時間で、安全な探究活動をどう設計すればよいか迷う」
蒸留は、器具の名称や操作手順だけを扱うと、暗記中心の授業になりやすいテーマです。
しかし、「なぜ温度計をこの位置に置くのか」「なぜ冷却水を下から流すのか」「得られた液体は本当に純粋なのか」と問い直すことで、装置の意味を根拠から考える授業に変えられます。
さらに、海水淡水化、蒸留酒、石油精製、溶媒の再利用などと結び付ければ、教室で学んだ原理を暮らし・産業・資源・エネルギー問題へ広げられます。
SFB科学教育デザインラボの「理科授業づくり相談室」では、単元構成、導入の問い、実験・探究活動の設計、安全に配慮した条件設定、板書・ワークシートの改善など、先生の授業づくりを一緒に考えます。
学校の設備、授業時数、生徒の実態、先生が大切にしたい学びを伺いながら、実際に授業で使える形へ整えていきます。
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