【世界が広がる大人のサイエンス】#12 放射線と同位体①【化学／物理学】

2025年12月27日 2025年12月27日 takizawa

これまで一般の大人の方向けに「ブログでわかるサイエンス」というシリーズで記事を投稿してきましたが、より一層楽しみながら読んでいただけるよう、シリーズ名を「世界が広がる大人のサイエンス」に変更しました。
中学校・高校の理科の学び直しを軸に、日常の出来事や社会問題を考える“入口”になるような記事をお届けしていきます。

さて、今回は「放射線」をテーマにします。
放射線という言葉には、2011年の東日本大震災にともなう福島の原発事故の印象もあり、「放射線＝危ないもの」というイメージが強いのではないでしょうか。
現在（2025年12月）も原子力発電所の再稼働をどうするかが話題になっており、賛否が分かれています。
だからこそまずは、放射線とはそもそも何なのかを、できるだけニュートラル（中立的）に整理してみましょう。

原子の構造の振り返り

前回の #11「原子の構造」でも紹介しましたが、原子は 陽子・中性子・電子 という3種類の粒子でできています。
原子の中心にある原子核は、プラスの電気を帯びた陽子と、電気を帯びていない中性子が集まってできており、原子の質量のほとんどは原子核が担っています。
一方、電子はマイナスの電気を帯びていますが、質量は陽子（や中性子）に比べて非常に小さく、陽子の約1/1840 しかありません。

また、原子番号＝陽子の数（ふつうは電子の数とも一致）、質量数＝陽子の数＋中性子の数という関係があり、元素記号と数字を使って、原子を構成する粒子の数を読み取れるように表します。

同位体と放射能

水素原子には、質量数の違いによって次の３種類が知られています。

¹H（軽水素）
²H（重水素：デューテリウム）
³H（三重水素：トリチウム）

これらは同じ「水素」という元素ですが、中性子の数が異なるため、互いに 同位体（アイソトープ） と呼ばれます。

ここで大事なのは、同位体の中には 安定なもの と 不安定なもの がある、という点です。
水素の例では、軽水素（¹H）と重水素（²H）は安定、一方で 三重水素（³H）は不安定で放射性です。

不安定な原子核は、時間とともに別の原子核へ変化しようとします。
この変化を 壊変（崩壊） といい、そのときに放出されるものが 放射線 です。
また、用語を整理すると次のようになります。

放射線：壊変のときに出てくる高エネルギーの粒子線や電磁波
放射能：放射線を出しながら壊変する性質
放射性同位体（ラジオアイソトープ）：放射能をもつ同位体
放射性物質：放射性同位体を含む物質

放射線の種類

放射線は、高いエネルギーをもった 粒子線 または 電磁波 のことです。
主なものは次の通りです。

α線：ヘリウム（⁴He）の原子核（粒子線）
β線：高速の電子の流れ（粒子線）
γ線・X線：高エネルギーの電磁波（一般にγ線の方がエネルギーが高く、波長が短い）
中性子線：中性子の流れ（粒子線）

放射線の性質（電離作用と透過性）

世間で放射線が「怖い」と感じられやすい背景には、放射線が次の２つの性質をもつことが関係していると考えられます。

電離作用：物質に当たると、原子中の電子をはじき飛ばしてイオンをつくる作用（＝化学反応が起こりやすい状態にする）
透過性：物質を通り抜ける力（どれだけ奥まで届くか）

放射線が人体に当たると、電離作用によって細胞内の分子（DNAなど）に影響が出ることがあり、状況によっては健康リスクにつながります。
そして、放射線の種類によって 電離作用の強さ と 透過性 は大きく異なります。

原子核の壊変（崩壊）

放射線は、不安定な原子核が壊変するときに発生します。代表的な壊変は次の３種類です。

α壊変：α線（ヘリウム原子核）を放出する。原子番号が２減り、質量数が４減る。
β壊変：β線（電子）を放出する。中性子が陽子に変化し、原子番号が１増える。
γ壊変：γ線（高エネルギーの電磁波）を放出する。
※α壊変やβ壊変の直後の原子核は余分なエネルギーをもつことがあり、それを電磁波として放出してより安定な状態に近づく。

とりあえずここで一息

今回は、「放射線とはどういうものか」を、同位体（アイソトープ）と結びつけながら整理してきました。
次回は、放射線の利用について、良い面・注意すべき面の両方から扱っていきたいと思います。医療・研究・エネルギーなど、放射線はさまざまな場面で利用されています。
ニュートラルな立場に立って、私たちはこれから放射線とどのように関わっていくのか、じっくり考えていきましょう。