教材研究のお供に一冊#3『熱力学で理解する 化学反応のしくみ』(平山令明著・講談社ブルーバックス・2008年)

高校化学でエンタルピーが導入される

私が大学生だった頃、物理化学、特に化学熱力学には非常に興味があった。
しかし、いざ学び始めようとしたものの、数式が多すぎて、何を言っているのかわけがわからずじまいだった。
今では「エンタルピー」「エントロピー」「ギブズエネルギー」「化学ポテンシャル」なんてものをやったかな〜?という程度にしか記憶にない。
これと似たような声が私だけではなく、全国の高校化学の先生からも出ているようで。
(某SNSにて)

それにもかかわらず、2023年度から開始される高校の新教育課程の科目「化学」では、エンタルピーが導入される。
これまで化学反応と熱の出入りについては、熱化学方程式として示されていたが、その示され方も変わる。
現行の教育課程で使われている熱化学方程式は日本独自のものなんだとか。
それを世界標準に合わせるという名目で、「反応熱」の代わりに「反応エンタルピー」という記述に切り替え、化学式を使った表し方も変更される。

しかも、高校化学の発展内容として、エントロピーやギブズエネルギーも教科書に記載されている。
こうなってしまう以上、教員として指導する上での背景知識として、化学熱力学を学び直さねばならない。
ということで、化学熱力学を手軽に学べるこの本をご紹介。

本の内容構成

1.「こと」を起こす根本 ー エネルギーとは

中学・高校の物理で学ぶ様々な種類のエネルギーの概略を紹介している。

2.化学結合エネルギー

エンタルピーや結合エンタルピーについて解説している。

3.状態を表す指標 ー エントロピーとは

ものが散らばることを確率論的に解析し、エントロピーの定義を解説している。
その上で、エントロピーの考え方を使って、様々な物理変化について説明している。

4.自由エネルギー

この章は、本一冊の中で一番多くのページを占めている。
平衡の概念と、エンタルピーとエントロピーのバランスをきちんと示した上で、ギブズエネルギー(ギブズの自由エネルギー)について解説している。

5.反応の方向を決める ー 化学平衡

前章をもとに、化学反応における圧平衡定数・濃度平衡定数と自由エネルギーの関係を踏まえ、平衡反応の移動について解説している。

6.反応(こと)が起こるスピード

反応速度や活性化エネルギーとエンタルピー・エントロピーの関係について解説している。

この本の感想

1.数式を極力抑えたわかりやすい記述

化学と熱力学の関わりは、物理化学という分野に含まれているが、これらの専門書・学術書を開いてみると、説明が抽象的、数式が多すぎてわけがわからない。
多分、私以外にもこう思われている先生は多いのではないだろうか。
数式を使うことで説明が簡便になると思うが、わけがわからないというのが私の本音。
(数式アレルギーというわけではないけど)
ただ、身近な事柄や、高校化学でも出てくるような反応を例にして、定性的に説明されようと努められているのがわかる。

高校の新課程の化学ではエンタルピー・エントロピー・ギブズエネルギーが登場する。
徹底的に理解するとしたら物理化学の学術書を読みこなすことがよいのだが、先生方がエンタルピー・エントロピー・ギブズエネルギーを授業で扱う際、背景知識を得る上ではとっつきやすいと思う。

2.エンタルピー・エントロピー・ギブズエネルギーの奥深さが改めて分かる

それでもやはり高校化学の基本知識を身につけておかないと、この本を読みこなすのは難しい。
特に、エントロピーやギブズエネルギーについては、どうしても数式を使って理解しなければならないところもある。
ただ、エントロピーやギブズエネルギーを理解すれば、あらゆる化学の現象を理解できることを、この本を読めば納得できる。
それだけエンタルピー・エントロピー・ギブズエネルギーは奥が深いということでもある。
ある先生が仰っていたが、これらを高校生に教えようとなると、本当に覚悟がいる。

補足

この本の著者の平山先生は、講談社ブルーバックス『暗記しないで化学入門』という本も著されている。
『暗記しないで化学入門』では電子の動きをもとに、化学結合や(特に有機化合物の)化学反応についてわかりやすく説明されている。
『暗記しないで化学入門』についても、今後の記事で紹介する予定でいるが、よろしければご参考までに。

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